ブンブク茶の間

SFと恋愛が大好物。恋愛はSFだ。

商社勤務の大政絢似(5)~最後のデート~

昨日は11月22日で、いい夫婦の日だった。

きっと、どこかのだれかの人生最良の日であろう
しかし、ぼくにとってはなんでもない1日であった。

ただ、ふと、きっとあの人のウェディングドレス姿は、
さぞ美しいだろう。と、考えてしまった。

 

f:id:tutti1990:20161124002400j:plain



出会いっていうものに、そもそも形は無いと思っていて
その人がそれを「運命の出会い」だと思ってしまえば運命だし、
「偶然」や「たまたま」と思う出会いだって
広義の意味では、それも運命になりえると思うんです。

友達の紹介から始まる出会いも
街で声をかけられた出会いも
ホストクラブで出会った男であろうと、キャバクラだろうと
それは全て「出会い」であり
そこに綺麗とか汚いとかはない。

「出会いは美しくあるべき。」

あなたがそう、美しくあるべきと考えて、
自分の中の「理想の出会い」という陽炎に振り回され続けてきて
そして、これからもその陽炎を追いかけ続け、振り回され続けるというのであれば、
今すぐこのブログを閉じた方がいい。

 

…。

 

うそ、やっぱ閉じないで。

ぼくがこれから書くことは、
ひとつの出会いから始まった、美しくも汚くもないけれど
きっと、不完全な人生の中で、美しくない出会いの中で
それでも、最も尊ぶべき出会いの話です。

大政絢似編の、最終回だ。

 

*

 

彼女とは、その日4回目のデートであった。
場所は、表参道。

確実に握りしめていた「脈」がざらざらとした気持ち悪い感触とともに
指の間からこぼれ落ちた3回目のデート

あれから、連絡のペースは落ちていたものの、
なんとかデートにこぎつけた。
当たりさわりの無い。というか、むしろさわりしか無いようなLINEのやりとりだった。

時間通りに現れた彼女は、とても綺麗な紺色のワンピースだった。
隙の無い、とても綺麗な色だった。

「お待たせです。じゃあ、いきましょうか。」
と彼女は言い
ぼくらは、彼女たっての希望である、
ダイニングバーへ向かった。

ぼくはビール、彼女はシャンディガフを頼む。

この4回目のデートで、ぼくはある目標を立てていた。

それは
「絶対に、押さない。引くに、引く。」
という、押してダメならとことん引くというものだった。

前回のデートで、手をつなぐのを拒まれるという事件は、
ぼくを逆に冷静にさせ、普通の精神状態では怖くてできない
「引きまくる。」ということを試みようと思った。

これまでのデートで好意があるということは
十分に伝わってしまっている。

だからこそ、引いた。

そして、このデートが「最後のデートである」と覚悟していた。

男性も女性も同じだと思うけれど、
それまでグイグイきていた人が、急に連絡をしてこなかったり
全然話しかけてこなくなったりしたら、
「俺(私)何か悪いことしたかな?」という気になって、
恋愛感情を無しにしても、気になってしまうことがある。

その心理状態を導きだそうと思い、その日、ぼくはとことん引いた。

お酒が運ばれ、ぼくたちはいつものように会話をした。

いままで、彼女が純粋にデートを楽しんでくれていたのは良く分かっていた。
本当にくだらないことで笑うし、ちょっとした間があっても、
気の抜けたテンションで色んな冗談を言ったりして、
心を開いてくれているように感じていた。

しかし、その日は違った。

会話中、ところどころ流れる気持ちの悪い間。
生返事に近いような相槌。終始張り詰めた空気であった。

これが1回目のデートだったら、卒倒してしまうくらい空気が重い。

いつもであれば、ぼくがこの空気を壊すために
冗談などを言うのだが、とにかく引いていたぼくは、
これといった冗談も、話題もあまり振らなかった。

しかし、さすがに悪いと思い

「小さい頃どんな子どもだったんですか?」
と聞いた。

彼女は、珍しくその質問には、しっかりと返事をした。
少し長い回答だったように思えた。

他に、ほとんどしっかりとした会話はしていない。

それでも2時間程度呑み、
彼女がいよいよ黙ってしまったので、
「出ましょうか。出て、少し歩きましょう。」
と言い。お会計をした。

表参道に立ち並ぶ、高級ブランドショップを脇目に
原宿方面に歩いた。

原宿を少し通り過ぎ、
代々木公園の方へ向かった。

人通りが少なくなったタイミングで、
ぼくは言った。


「実は、今日言おうと思っていたことがあるんです。
 今日、楽しかったですか?
 もう楽しくないって少しでも感じているのであれば、
 もう2度とデートに誘いません。
 その方が、お互いのためにも、良いと思うんです。」

 

今日が最後。そう覚悟したうえでの質問である

 

それを言った瞬間、それまでうわの空だった彼女が
一瞬。我に返った気がした。

少しの間が空いたあと

 

「いえ。楽しいです。」

と、しっかりと口にした。

「じゃあ、またデートに誘います。良いですね?」

 

「はい。」

 

その後は、張り詰めていた空気が、ほんの少し柔らかくなって
会話にも、人の体温を感じるものが増えた。

ただ、相変わらずの彼女の隙の無さに変化は現れず。

結局そのまま解散した。

彼女の温度の分かる会話は、
その「楽しいですよ。」だけだった。

 

これが、最終回。4回目のデートである。

そして、4回目のデートは、終わったのだ。


*

 

それから、彼女からは一度
そのデートに対して集中できていなかったという旨の謝罪の連絡があった。
別のことを考えてしまって、うわの空だったという。

それからは、ほとんど連絡は取れず、

デートに誘いはするが、
なかなかいい返事がもらえなかった。



しかし、ある時
突然彼女から連絡がきた。


「会いませんか?」

 

知らなかった。というか、忘れていた。
意中の人からの誘いが、こんなにも嬉しいもので
色んな悩みが一瞬で吹き飛んでしまうような威力があることを。

ただ同時に、大きな不安がこみ上げてきた。

彼女は、適当な女性ではない。

人と接する時、真剣に接することができる人だった。

だから、この誘いも「暇だから」とか「時間が空いたから」とか
そういう思いつきの類のものではなく、彼女にとって、
意味のある時間を作りたい。つまり、何か話すべきことがある。
ということだと思った。


*


当日

久しぶりの彼女は、相変わらず綺麗で
ぼくと目が合うと、一瞬だけ笑顔を見せたあと、思い直したように
凛とした表情に戻った。
「久しぶりです。」も「こんにちは。」もなく、
2人とも、黙っていた。

ずっと黙ってもいられないので、
「歩きましょう」と言い、2人で歩いた。
なんか、デートする度に歩いているな。

ほとんど会話もなかった。

というか、何を話したら良いか本当に分からない。


そして、手頃なベンチを見つけて、
2人で座った。

 

「伝えないといけないことがあるんですよ。」

彼女が、ポツりポツりと話を始めた…。



彼女は、過去のぼくとのデートが間違いなく楽しかったということや
何を食べて、どう思ったかという話をした。

しばらく、そういった話をしていた。

ぼくはそれを聞いて、とても嬉しくなった。
と同時に、これから待ち受けるであろう

「本当に伝えたいこと」

がなんであるか、考えていた。

ひとしきり、話し終えたあと。
彼女は言った。




 

 

 

 

 

 

 

 


「私。結婚していたんです。」

 

 

 

ずっと、考えていた。
彼女の煮え切らない態度や、会話の端々から感じ取れる余裕。
そして、それまで彼女がしてきた全く理解できない言動の数々。
全て辻褄が合った。

同時にぼくは思った。

「やっぱりか…。」

考えないようにしていたけれど、
ずっと、頭の中にあった。

そして、彼女は更に付け加えた。

 

 

 



「今は違います。」

 

 

 


2重でショックだった。


そして、彼女は
それから、すごく沢山の話をした。

今まで、明確でなかった全ての言動の辻褄が合うよう
彼女は、それ以外にも沢山の話をした。
結婚をしていたという話は氷山の一角に過ぎず、その他に彼女は大き過ぎる問題と戦っていた。
ある病と戦っていた。
それは普通、人には到底話せる内容ではないことでもあるし
恐ろしく勇気のいることであったと思う。

 

そして、彼女の抱えている多くの問題は、
ぼくの力で解決できるものではなかった。




ただ、ぼくは、他人に対してここまで自己開示をする人を尊敬した。

 

好きとか嫌いということではなく
ここまでの話をしてくれる人は、信頼できる。
これからも、一生関わっていたいと思った。

そして、僕からは何も力になれないけれど、
ずっと関わっていたいという意思を伝えた。




「ごめんなさい。」

 

 

彼女からの回答はこれだけだった。


彼女は、終始これだけを言った。


結局、僕らはその日を最後に、
もう会わないということになった。

大きすぎる問題を目の前にして、
あなたにはもう会えないということだった。


今後も、連絡は取らない。


彼女との関係は、そこで、終わった。

 

告白もしたが、それも成就することはなかった。

*

 

 

一つの軽率な出会いから始まったものであったけれど、
ぼくにとって、物凄く深く沢山のことを考えることができた出会いだった。
それは美しくもなく、汚くもない。
でも、2人とも美しい出会いにしようと懸命だった。
そんな出会いでした。

出会い方は、どんな形でも良くて、
肝心なのは、それをどう育むかということを学んだ時間でした。

 

こうして、ぼくの大政絢似への恋は、
ひっそりと終わったのでした。

 

良い夫婦の日であった、昨日
きっと、どこかのだれかの人生最良の日であろう
しかし、ぼくにとってはなんでもない1日であった。

ただ、ふと、きっとあの人のウェディングドレス姿は、
さぞ美しかったんだろうな。と、考えてしまいました。