ブンブク茶の間

「付き合う前」の、あの感覚が、最高に楽しい。

ある女性と出会うまで(1)

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東京副都心。
27歳になったばかりのぼくは、
10代の頃に憧れた「良い大人」になれているだろうかと考えていた。

「良い大人」だなんて、そんな抽象的なものでしか未来を想像できなかった10代。
その、想像すらできなかった27歳が今、明確な具体性を持って、
目の前に横たわっている。

「良い大人」というものが、歳を重ねたからといって具体的になる訳もなく、
ぼくは、ライフスタイル雑誌が提案する「良い大人(仮)」の像を演じようと、
仕事終わりに、都内のスターバックスに立ち寄った。

 

***

 

 平日の夜で、パラパラと空席はあるものの、店内は賑わっていた。

ぼくは会社用のPCを立ち上げて、明日の仕事のスケジュールを確認したり
処理しなくてはならないメールに目を通していた。

 

何件かのメールを処理していたら、ぼくの隣に女性が座った。

 

綺麗に切りそろえられたショートボブのその女性は、
小さなマグカップをテーブルに置き、席についた。
そして、手帳を取り出して、なにかを書き始めた。

 

男の性(さが)だと思うが、綺麗な人がいると一瞬目が行ってしまう。 

 

ぼくは、その一瞬切れた集中を、もう一度PCに戻した。

 

メールの処理が済み、カバンの中に入れてある本を読んだ。
仕事関係の金融テクノロジーに関する本だ。

スターバックス × PC × 本

 

ライフスタイル系雑誌が推奨する、
東京のビジネスマンのあざとい生体そのものを演じ、
自分がめっちゃくだらない27歳になったなぁと思った。

と同時に、本×コーヒーという尿意を導くにもってこいの組み合わせに
まんまとやられ、急に猛烈にトイレに行きたくなった。

 

ぼくは、少し考えて、下心とか全くない状態で、
そう、下心なんか全くない。 全くなかったハズだ。ないのだ。そんなクリーンな心で、隣の女性に声をかけた。

 

 

「すいません。ちょっとだけ、荷物見ていてもらえませんか…?」

 

 

彼女は、一瞬怪訝な顔をした。いや、一瞬ではない。

わりと長い間怪訝な顔をした。時間にして、少なくとも2秒。

2秒だ。いまその場で、「1...2」と数えてみて欲しい、

その間、彼女は怪訝な顔でぼくの顔を見ていたのだ。

結構、長い。

 

ぼくは「下心が出たかも…」と反省しつつ、こう付け加えた

 

「ちょっと席外してしまうので…。」

 

その言葉に彼女は、

「あっ、はい。」と答えた。

 

「すいません。」
ひたすら恐縮しきる他なかった。

 

注意して頂きたいが、基本的に声をかける目的でカフェに入ることは
ぼくはモラルに反していると思っている。
相手の時間を奪う行為に近いと思っているからだ。

 

しかし、このブログを御覧頂いている女性陣には是非覚えていただきたいのだが、
ナンパする側の人間の1つの手法として、
スターバックスで隣の女性に荷物を見ておいてもらう」
という手口がある。テンプレ化するほど、手口としては横行している。

 

ただ、ぼく自身の名誉のために言うが、ぼくが彼女に声をかけたのは、
ナンパとかではない。トイレのためだ。
しかし、この急激に沸点を迎えた尿意に抵抗する術を持たなかったため
とっさに、本能的に、マジで下心なんかなく(いやちょっとはあった)
となりのショートボブの女性に話かけたということが前提にあることを理解していただきたい。

 

 

用を足して、席に戻り、彼女に御礼を言った。
下心は尿意とともに水に流し、本当に心から御礼を述べ、
彼女の作業を邪魔してしまったことを、少し申し訳なく思った。

 

「すいません。ありがとうございます。」

 

「あっ、いえ。(ニコッ)」

 

さっきまでめっちゃ怖い顔で不信がっていたこの女性
ぼくがトイレに行っている間に心境の変化でもあったのでは、
と思わざるをえない笑顔で会釈をしてくれた。

 

「ありがとうございます。(ニコッって…綺麗過ぎるだろ。可愛いな。ってか顔小さいな。年上かな。笑ったときの目尻のシワとかすげぇ可愛いな。会社この近くなのかな。

オフィスカジュアルっぽい服装だけど、なんか上品だしきっと仕事出来る人なんだろうな。
あっ、ピアス大きい。結構揺れるタイプのピアスだ。男って、ポニーテールとか
チェーンタイプのピアスとか、おっ◯いとか、さり気なく揺れるものに弱いんだよな。
で、この人スタバで何やってるんだろ?手帳にスケジュール入れてるのか。
あれ?この人の手帳って…まさか。)」

 

御礼を言いつつ、ふと、彼女の手帳に目を落とした。

 

ぼくは気がついてしまった。
彼女が使用している手帳は、ほぼ日手帳だった。

 

www.1101.com

 これは、かの有名なコピーライター"糸井重里"が代表を務める
株式会社ほぼ日が手がける手帳だ。ファンも多い。

 

モデルは違うものの、ぼくも基本的には
ジャケットのポケットに、常にほぼ日手帳を入れている。

 

下心は、尿意とともに水に流したハズ…そう思っていた。

 

しかし、思いがけずその女性がすがすがしい笑顔をするものなので、
ぼくが油断してしまったのかもしれない。
あと、揺れるピアスになにか心が動かされてしまったのかもしれない。

 

「あっ、それほぼ日手帳ですか?」

 

「え?あっ、はい。ご存知なんですか?」

 

「あっ、僕も好きで使っていて。」

 

「そうなんですね。私も気に入っててもう3年くらい使ってます。」

 

「へー。そうなんですね。糸井重里、ですよね。」

 

「あっ、よくご存知ですね。好きなんです。」

 

「使いやすいですよね。」

 

「ええ。」

 

「はい。」

 

……。

 

会話が終わった。

ぎこちなく終わった。

 

 当然だ。

会話ができただけでも、奇跡だ。
これ以上ない、奇跡だ。知らない相手と、この状況で世間話など
できるハズもない。

 

ぼくは良くわからない感情を抱いたまま、
そのまま、本を読むことにした。しかし、金融テクノロジーの本は閉じ

スマホにダウンロードしてある、40歳の男女の恋愛の本を読み始めた。
気持ちを、恋愛にもっていきたくなった。(なぜ)

 

しばらくして、隣にいた女性は手帳などを片付け
席を立った。どうやら帰るようだ。

 

帰り際、彼女はなんと

ぼくに軽く会釈をして席を立ったのだ。

ぼくにはその行動がすごく「大人の女性」の仕草のように感じられ、

驚きを隠せなかった。

 

もちろん。ぼくも軽く会釈をした。

 

彼女が出入り口の扉に向かって歩く。

 

後ろ姿を眺めるぼく。

 

ぼくの心拍数が上がる。

 

店を出た瞬間、

 

決意は固まった。

 

テーブルに出していたPCや本をカバンに片付け、

彼女を追いかけた。

 

店を出て、10mほど離れた所に彼女がいた。

 

「すいません!」

 

「……!?」

 

「あの、すごく失礼だって分かってるんですけど、
 なんか、すごく親切な方だと思って、ご迷惑じゃなかったら
 連絡先とか教えてもらえたりしませんか…?」

 

 

「は!?」

 


そう。確かに「は!?」だった。

 

「え!?」じゃなく
威圧的な「は!?」だった。

 

しかし、ぼくは2度は言わなかった。

 

「ええ。良いですよ。(笑)」

 

OKが出た。

 

彼女は、

 

「こんな人、初めてですよ(笑)
 ビックリです。ほんと。(笑)」

 

と言いながら、LINEのQRコードを差し出してくれた。

 

ぼくのスマホは嬉々として彼女のQRコードを吸い込んだ。

 

「ありがとうございます!連絡します。
 無理だったら、もう、無視してくれていいんで!
 でも、いきなりブロックとかは勘弁してください…2往復くらいやりとりしましょ!
 それから判断してください。」

 

「はい。じゃあ2往復だけ。(笑)

 では。また。」

 

 

そう言って、彼女は去っていった。

 

 

ぼくは、高揚した気持ちをこらえながら、
10代の頃はこんな大人(27歳)は想像していなかったし、
決して「良い大人」がやることではない。

しかし、良い大人にはなれそうにもないけれど、

 

挑戦し続ける大人に、そうなりたいとおもった。

 

これを挑戦と呼ぶかは知らないが。

   

 

 

 

 

※ご注意
カフェやバーでの過度な声掛けは、
お店や相手に対する迷惑行為になる場合があるので、
良識ある行動を心がけるよう、ご注意ください。