ブンブク茶の間

「付き合う前」の、あの感覚が、最高に楽しい。

ある女性と出会うまで(3)~人生でたった2回会っただけの男~

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女性と付き合う時に「結婚」という2文字を無視できない年齢になった。
そのうえで「人を好きになる」っていうことが、
シンプルに「好き」だけなく「経済力」「価値観」「相性」「家族」etc
色んな不純物が混ざりあった状況で、恋愛をしなくてはいけなくなった。気がします。

 ***

 ぼくらは、土曜日の午後、
あと少しで日も落ちるだろうという時間に待ち合わせをした。
そこは都内でも有名な商業施設がある街だった。

前回のデートから想像するに、彼女は多くの恋愛経験をしており、
映画・水族館・ドライブ・ショッピング…。直近だけでもそうした
「デートの定番」をかなり経験しているようだった。

当然、35歳という年齢を考えると、その"デートの定番"という言葉以上に
質の高いものが彼女には提供されてきたのだろう。

ぼくは、彼女に特別な感情を抱いていたとは言い難い状況ではあるものの
そういった「見えないライバル達」と同列だと思われるのがなぜか嫌だったので、
公園でピクニックをしてから、お酒を飲む。というデートプランを提案した。

35歳の女性を相手に、ピクニックを提案するライバルは、きっといないだろうと考えたからだ。

彼女は快くそれに応じ、本日に至った。

 

「雨降らなくてよかったね。
 ここはたまに来るんだけど、公園なんてあったかな?」

 

「雨降らなくて良かったですね。
 意外にも、近くに公園あるんですよ。
 さゆりさん、いろんなデートしてるだろうと思ってピクニックをチョイスしました。」

 

「いや、そんなに思っているほどデートなんてしてないよ。
 でも、こういう形でピクニックを提案されるのは初めてだね。
 考えてくれてありがとう。」

 

さゆりさんは、大人びた受け答えが特徴的で、
不用意に相手の気持ちを踏みにじってしまうような言葉選びをしない。
丁寧な対応ができる人だった。

 

「本当はもう少し早い集合でも良かったんだけど、
 あんまり早いと暑いだろうから、少し遅めにしちゃいました。」

 

「あっ、そっか。確かに今日暑かったしね。暑いの苦手だし、
 助かったかも。」

 

そんな会話をしながら、
ぼくらは公園に向かった。

 

「わー。ほんとだ。こんな所に公園あるんだねぇ!
 しかも、結構広い!」

 

そこは、多くの家族連れで賑わっていて、
外国人も多かった。

やっと歩くことを覚えたような子どもも多く、
その親はどれも上品で、世帯年収の高さが
そのまま身体から滲み出ているような人種の人達だった。

ぼくらは、公園のベンチに腰掛け
前回のデートの記憶をたどりながら会話を続けた。

しばらく、お互いの芯に触れるような会話はなく、
簡単な仕事の話、高校時代の話、キャッチに捕まって行った居酒屋が最悪だった話など
をしていた。

あるタイミングで、過去の恋愛の話になった。

すると彼女は、話せるネタが豊富だったようで、かなり饒舌になり、
過去の恋愛の話を始めた。

 

 聞けば、彼女は以前、あるアーティストのアシスタントをしていて、
各地へのライブに帯同したり、彼らの音楽活動の端から端まで関わっていたのだという。

そして、ライブ終わりに、
楽屋にきたメンバーの友人が、彼女に一目惚れをし、
その場で交際を求めてきたそうだ。

よくよく聞くとその彼は、地主の息子で
本当に、本当に文字通りのセレブだったそうだ。

彼は「お金」という物質が有限であるということを忘れるような資産を持ち
交友関係も非常に幅広く、そんな彼が「なぜ私を?」と、さゆりさんは
疑問に思ったそうだ。

事実、そんな絵に描いたようなセレブな元カレは、
さゆりさんへの愛情に偽りは無かったようで、
話を聞く限りではしごく真っ当な付き合いだったようだ。

 

この話を聞いただけで、ぼくは単純に
「面白い人と付き合ってたんだなー。」と感じた。

この後も他の元カレの話になったが、正直、ぼくが予想していた
"普通の彼氏"は一人も出てこなかった。

ぶっちゃけ、どれも色んな意味でぶっとんでいた。

彼女は予想通り、異業種格闘技的にいろんな男性と付き合っていた。

 

彼女の過去の恋愛の話だけで、2時間はあっただろうか。

 

ぼくは、その2時間を、ただひたすら相槌と、時折疑問を挟みながら聞いていた。
彼女といえば、ぼくのリアクションを伺いながら、
言葉を選びつつ話をするので、聞き手を飽きさせることはなかった。

 

さゆりさんは、自分のそういった過去の話をしながらも
ただ事実だけを話すのではなく、自分のその時の感情や
どう行動してきたかを話してくれていたので、どういうものの考え方をする人なのか
その輪郭をとらえることができた。

そして、たまに「君、これどう思う?」と僕の考えを伺い、
2時間のほとんどが彼女の恋愛の話がベースであるものの、
一方的ではなく、2人で形作った会話が成立していた。

 

「ごめんね。私ばっかり話ちゃって。」

 

「全然です。引き込まれすぎて、もう2時間経ちましたね。」

 

「わっ。そうだね。ごめんごめん…。どうする?まだここにいる?」

 

「じゃあ、そろそろご飯食べに行きましょうか。
 ちょっと行ってみたいお店があって、予約しちゃってました。」

 

「そうだったんだ!ありがとう。じゃあ行こうか。」

 

そんな流れで、予約していたダイニングバーに向かった。

店内はまだそんなに人が入っていなかったが、
カウンターの向こう側から店員が、

「いらっしゃいませ。◯◯様ですね。こちらです。」

 

と、カウンター席の一番奥へ案内してくれた。

 

彼女に何を飲みたいか尋ねると、
メニューを見ながら、うーんと唸りながら決められないでいるので

 

「ワイン飲みますか?」

 

「いいですね。ワイン。」

2人で白ワインのボトルを頼んだ。

 

お酒を呑んで、しばらくすると、今までお互いにあった精神的な壁は、
アルコールのお陰ですこしずつ取り壊され、2人ともかなり饒舌になっていた。

 

カウンター席ということもあって、距離も比較的近く
彼女の顔もまじまじと見ることができたが、見ればみるほどとても35歳とは思えないくらい綺麗な顔立ちをしていた。

彼女は、話をする時に相手の目をしっかりと見て、逸らさない人だった。
それだけで、なんだかとても信頼できた。

 

「さゆりさんは、どうしたら人を好きになるんですか?」

 

「それ、なかなか答えの出ない質問だよね。なんだろ。
 もう私くらいの年齢になると『好き』っていう感情がすぐに出てこないんだよね。
 昔ならこの人好きだなぁって思える人でも、いまは色んな不純物が混ざっちゃって。」

 

「不純物って、例えば?」

 

「好きってだけで結婚なんてできないじゃない?
 他にも経済力だって大切だし、会話のリズムとか。あんまり言いたくないけど
 価値観とかもね。そうなってくると、すごくシンプルな『好き』だけでは
 心が動かないんだよね。」

 

「そうなんですね。じゃあ純粋にシンプルな『好き』だけを追い求めるなら
 どんな人が良いですか?」

 

「えー。そりゃあもう、イケメン。だよね。」

 

「今までの会話からは想像できないくらい安易な。」

 

「はは。まぁ、マストじゃないけど、イケメンに越したことはないよね。
 基準ラインさえ越えてくれれば良いけどね。」

 

彼女は鼻梁に皺を作りながらくしゃっとした笑顔で笑って、
その感も目を逸らそうとはしなかった。

彼女のそうした気さくな受け答えと、
笑った時の顔をみて、

 

ぼくは、思った。

 

 

やばい。落ちる…。

 

 

今まで「どんな人なのかなぁ」という所で大人しくしていた、
ぼくの彼女への興味は、次第に尊い感情に移っていくのがわかった。

 

彼女は相変わらず会話の中で、お互いの核心迫るような内容には触れなかったが
ぼくの中では「好きかもしれない」という感情がちらちらと見え隠れしていた。

 

 

そろそろ電車の時間も意識しなければいけなくなった頃、

ぼくは言った。

 

 

「今日、楽しかったですか?」

 

VS 大政絢似から使ってきた、伝家の宝刀だ。

 

「え?あ、楽しいですよ。いっぱい話してますよね。」

 

(今更ながら、この状況で「楽しくない」なんていう人間いない気がしてきた…)

 

「良かった、結構長い時間拘束してしまったから、
 疲れてないかなって思ったんですけど。」

 

「いえいえ。全然。お酒も美味しいし。大丈夫です。」

 

「そうですか。」

 

お互い酔っているので、
多少の沈黙にも寛容だった。

少し沈黙が続いたあと、ぼくは我慢できずに核心にせまった。

 

「さゆりさん、これ、告白じゃないという事を前提に聞いてくださいね。」

 

さゆりさんは、沈黙の間、ワイングラスをぼんやりと眺めていたが、
そのセリフを聞いて、少し目を開いて、こっちを向いた。

 

「はい。なんですか?」

 

「今まで、まだ2回しか会ったことないじゃないですか。ぼく達。
 スターバックスから数えたら、3回目。デートで数えたら、2回。
 今ならこのまま帰って『あー楽しかった。』って関係で終わってしまうことも
 可能性としてはある訳ですよね。」

 

「そうですね。「楽しかったー。」ってなりますよね。」

 

「でね。今日会って思ったんですけど、
 さゆりさんの中でぼく『2回デートしただけの男』で終わるのが
 なんか凄くイヤだなって思って。

 今日楽しかったって思ってくれたなら、
 『3回デートしても良い男』に昇格させてもらって、もう1回会ってくれませんか?」

 

 

【核心に迫るような内容】が今まで無かったが、
ぼくは回りくどくも、この時、この日初めて【核心に迫る】とまではいかないが、
【核心にちょっと近づく】質問をした。

 

すると、彼女は今日…いや、いままで見せなかった女性らしい顔で笑って

 

「ええ。もちろん。是非、行きましょう。」

 

 

……。

 

 

マジ。ネタにもならないくらい、円滑に2回目のデートが終わった。

 

まじで、ここまで4000字程度を費やしたけど、
なんの面白みも自虐もないまま、

 

円滑に

 

デートが

 

終わった。

 

 

 

 

 

彼女が元彼の話をする時、自分の恋愛譚なのに、
海外旅行の思い出話しをするみたいに、
客観的で、俯瞰的で、そしてドラマチックだった。

詩的な表現にも聞こえる、けれど大げさではない彼女の言葉選びも
魅力のひとつだったと思う。

 

とにかく、ぼくはこの日、彼女にとって
「人生で2回デートするだけの男」では終わらず、
「3回目のデートを約束した男」に昇格したのだ。