ブンブク茶の間

「付き合う前」の、あの感覚が、最高に楽しい。

ある女性と出会うまで(4)

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例えば、
燃えやすい紙に火を付け、みるみるうちに火が大きくなり
よく燃えるな、と思った頃には急速に火の勢いが弱まり、
ほとんど何も残らずに消える。
10代の恋や、一目惚れのような恋愛は、
そんなかたちで始まり、恋愛における燃料不足で終わるような気がする。

お互いが、交互に薪をくべるように火を成長させ
気がつくと手に負えないくらい大きな炎になっているような。

年を重ねれば重ねるほど増えていく、経験や知見といった"薪"を
火の中に放り込んで、お互いでどこまでその炎を大きくできるのか
年を重ねれば重ねるほど、そういう恋愛をできるんじゃないかなぁと思った。

 

「ある女性と出会うまでシリーズ」第4話(前編)です。

 

今までのお話

1話:ここはまだ途中で、ゴールではない ~ある女性と出会うまで(1)~

2話:なぜ、年上が好きなんですか? ~ある女性と出会うまで(2)~

3話 :どこで下心を見せるのか。 ~ある女性と出会うまで(3)~

 

***



ぼくは、その日、
とにかく「この日のデートを成功させる」それしか考えていなかった。

【成功】という言葉を形作る結果があるとするならば、
常に書いてきたことだが

「次のデートにつなげる」ということだ。

最高の形で次を迎えるために、

今日のデートは、最高の形で終えなければならない。

 

デートの場所は、有名な大きな展望台のある街だ。

 

「ぼくら田舎者だし、高い所から東京を見下ろそうと思うんですが。」

 

という僕のLINEに対して

 

「良いですね。たまには見下ろしてやりましょう。東京を。」

 

という、承諾を得た。
その日ぼくらは東京を見下ろすため、展望台でデートをすることとなった。

なんとなく、ぼくらの連絡はいつもちょっとふざけて、
少し芝居じみた内容だった。


ぼくは1週間前から、デートの流れ、1軒目のレストランの予約、2軒目のバーの予約を
済ませ、土曜日の人がごった返す東京で、居場所がなくなるという状況だけはならないようプランニングした。

そして、仮に、終電を逃してしまった場合のスマートな提案方法含め。ぼくは頭の中に入れていた。

 

集合時間の夕刻。
彼女は予定より少し遅れた時間に現れた。

黒のノースリーブから、綺麗な白い両の腕を伸ばし、
髪は後頭部の適度な位置で、控えめに結われていた。

 

「こんにちは。時間通り、、、かな!」

 

若干遅刻してきた彼女は、悪びれる様子もなくそう言った。

 

「うん。遅刻とみなされますね。」

 

2週間ぶりに会った彼女は、相変わらず綺麗に伸びた鼻筋にキュッと皺を寄せて
少年みたいに笑った。

 

「えー!…電車が目の前で行っちゃって…笑 待ちました?」

 

「いや、そんなに待ってないですよ。」
いや、実はぼくは45分前から着いていた。気合いが違う。

 

「 良かった。でもまた遅れたらレッドカードだよね。
 次は気をつけまーす。」

 

そんなやりとりをして、
展望台を目指した。

正直、展望台なんてどうでもよかった。東京を見下ろすなんてどうでもよかった。
彼女と会える口実になるのであれば、展望台だろうと公園だろうと、映画だろうとなんでもよかったのだ。

ぼくらはきっと「口実作り」のために東京には悪者になってもらっていた。
お互いにそれはなんとなく気がついていたと思う。

 

展望台から眺める東京はとても綺麗であったが、
一通り外を眺めた後、景色とは全く関係の無い話をしていた。

しばらく話をした後、
彼女は、白く細い腕に着けていたTIFFANYの腕時計を眺め

「どうしましょうか?」

と言った。

 

「ここから少し駅の方向に歩きましょう。
 駅の方にお店を予約してあるんですけど、まだ時間があるので
 ちょっとお茶でもしましょうか。」

 

「そうだったんですね。ありがとうございます。じゃあ、行きましょうか。」

 

彼女と駅に向かっている間、
必ずしも、滞りなく会話が進んだという訳でもなかった。

居心地の悪い沈黙や、出てこない言葉を探している一瞬がとてつもなく長く感じた。
しかし、ぼくらはお互いにバランスを取るように質疑と会話を繰り返していた。

ぼくはその居心地の悪さと居心地に良さの間をゆらゆらと揺れているとき
彼女に対する恋愛感情を、もう無視できない所まで来ていることを確信した。

 

 駅周辺に着くが、そこには多くの人がいて、
簡単な喫茶店に入るだけでも難儀そうに思われた。

 

 

「昔ぼくが保険の営業をされた思い出の喫茶店があるんで。そこに行きましょう。」

 

「保険?」 

 

「先輩が転職して、保険の営業マンになったんですけど、熱烈に口説かれました。3時間も。」

 

「3時間も?すごいですね。で、結局入ったの?保険。」

 

「入りませんでした。もう他のに入ってるんでって断りました。」

 

「入ってるなら、それで押し通して15分くらいで終わらせたかったね。」

 

「ホントですね。あっ、ここです。」

 

そこの喫茶店は、他の店の人口密度に比べて客の数が少ない。
というのも、単純な話、飲み物の価格が1杯1,000円~ という設定にされており、
ちょっとお茶を飲みたいという20代前半のカップルでは躊躇するよう設定されていた。

しかし、今日のぼくは本気だった。
金で解決できることは、すべて金で解決するつもりだった。

 

上品な内装の喫茶店でぼくらは、ぎこちなかった会話の流れをゆっくりと解きながら会話をしていた。

 

飲み物は何が好きか、食べ物は。
どういう時に、何を食べるようにしているか。
起きる時間は、寝る時間は。
生活における、お互いの生活リズムなどの話をして、何を楽しみに生きているかを話あった。

 

「私、1日2リットルくらいお茶を飲むんです。」

 

「2リットル?お茶をですか?水じゃなくて?」

 

「そう。お茶。」

 

 「水を飲むって人はよく聞きますけどね。」

 

「お茶なんです。毎日水筒で飲んでます。」

 

「なんでお茶なんですか?」

 

「分かんないんですけど、昔からそうなんですよね。」

 

「お酒も、ワインしか飲まないですよね。」

 

「うん。ワインばっかりだね。あとは居酒屋とかならサワーだけど。
 私からお店の提案をするときは、だいたいワインのある所だね。」

 

ぼくは、氷の入ったアイスコーヒーのカップがかいた汗を指でなぞってやりながら、
話を聞いていた。

すると、彼女がある拍子にちらっと腕時計に目を落とした。

この状況で、腕時計を見るということは彼女は何か思う所があるのかなと感じ、
思い当たることを聞いてみた。

 

「…お腹空いてきました?」

 

「実は、結構空きました。」

 

「お店、予約した時間までまだあるんですけど、
 ちょっと早めに行ってみましょうか。」

 

「そうですね。食べ物の話もしてたから、お腹空いちゃったから。」

 

そんな感じで、ぼくらは予約していたビストロに向かった。

ぼくはこの店で「カウンター席×禁煙席」と予約していたのだが、
まさかの「テーブル席×喫煙席」というお店側のダブルミスが生じており、
一瞬、焦りと不信感で腹を立てたが、スタッフと丁寧に交渉して、
なんとか禁煙のテーブル席に案内してもらえた。

 そこでは、乾杯用のシャンパンをグラスで頼み、
その後、白ワインをボトルで開けて呑んだ。

お酒の入ったぼくらは、アルコールによって緩和され
さっきよりもいくらか饒舌になっていた。

あっという間に2時間が経過し、混み合った店内では
2時間制が敷かれていたため、男性店員が控えめに時間の限界を告げにきた。

2度ほど、その店員の催促をやり過ごした。

 

「さゆりさん、実はもう1件行きたい所があるんですが、
 良かったら、行きませんか?」

 

「え、行きましょう行きましょう! どんなお店ですか?」

 

「ぼくも行ったことないんですけど、ちょっとした、バーみたいな。
 ワインもあると思うので、行きましょうよ。」

 

「ええ。ぜひ!」

 

「じゃあもう少ししたら出ましょうか。トイレとか平気ですか?」

 

「あっ、じゃあ行ってこよっかな。」

 

彼女がトイレに席を立ったあと、
ぼくは入れ替わるように店員を呼び、会計をした。

 

ぶっちゃけ。今日の予算は青天井だった。
金で解決できることは、すべて金で解決するつもりだった。

 

彼女がトイレから戻ってきて、
そのまま、2軒目に向かうため、店を出た。

 

「あれ?お会計は?」

 

「もう払いました。」

 

「え。払うよ!」

 

「じゃあ、次のお店でちょこっとください。」

 

「えー…。それでいいの?ありがとう。ごちそうさま。」

 

「いえいえ、全然。そういえば、さゆりさんって
 デート誘われること多いって言ってましたよね?」

 

2軒目に行く途中、ぼくは唐突にそんな質問をした。
しかし、この質問が、自分で自分の首を締めるとは
この時は全く想像もしなかった。

 

「あ、うん。誘われることはたまに。」

 

少し、回答に間を感じた。

 

「最近もあるんですか?」

 

「うん。あるよ。」

 

「この先もあるんですか?」

 

「うん。誘われてるよ。」

 

彼女は続けた。

 

「その人、私のこと好きなんだって。今まで何度かデートはしてるんだ。
 そして、まだデートする予定もある。」

 

 

ぼくは突如現れたダークホースの存在をまざまざと見せつけられた。
ダークホースどころか、見方によってはそっちが本命なのでは?と
思われるような話し方だった。

それは「彼女もぼくの事を好きでいてくれているかもしれない」という淡い期待を
裏切るには十分な材料だった。

 

ぼくは、彼女を2軒目に誘ったことを後悔し、
現れた胸中の気持ち悪さをぶらさげたまま歩いた。

 

「その人、年齢はいくつですか?」

 

 

「32歳。私より、3つ下。君より…えっと、5つ上。かな?」

 

 

ぼくは、年上の女性を捕まえるために、
見たこともない5つ年上の男性との戦いに、勝利しなければならないのだった。

そして、酔っているにしても彼女のその言葉は、
今までの感情を察しているのであれば、到底理解のできないものであったし、
ぼくのそれまで彼女に向けていた愛情が、その瞬間
ほとんど憎しみに近いかたちに変化していくように感じた。

 

その感情の変化を、ぼくはすぐには理解し難く、
2軒目に向かう足取りは、想像以上に重くなっていった。