ブンブク茶の間

「付き合う前」の、あの感覚が、最高に楽しい。

高飛車ガール

お酒が得意ではないと言った彼女(30歳)は、
かなり薄められたサングリアを揺らしながら
頬を少しだけ赤くして、陽気に話していた。

 

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 今回の話は、今までのような一方的な片思いの話ではなく、
珍しく、ぼくに好意があった(と思われる)女性との話。

 

***

 

友人の紹介で、1度だけ食事をし、
今回会うのは2度目だった。
土曜日の渋谷だ。

 

1度目は、友人を含めた3人で食事をして、

「あとは2人でお好きにね!」と言い残して友人は席を外し、
ぼくたちは2軒目で、それなりの時間、お互いのことを話し合い、
月並みに「また飲もうね」という言葉で別れた。

 

当たり障りのない、1度目の顔合わせを終え、今回は2度目だった。

 

彼女の印象は、芸能人で例えるなら、なんとなく多部未華子に似ていて、
外側に流れる奥二重の切れ長の目が特徴的な女性だった。

 

「私、心理学勉強しててさ。」

 

瓶のような入れ物に入ったサングリアをかしげながら彼女は言った。

 

「心理学ですか?すごいですね。何か分かるんですか?」

 

「分かるっていうか、結構人のこと観察しちゃう癖があるんだよね。」 

 

自慢げに話す彼女の心理学の話は、血中アルコール濃度の上がったぼくには
とくに刺激的ではなく、店員の気遣いでテーブルに置かれた灰皿を、
端にずらしながら、適当に相槌をうった。

 

「そうなんですね。じゃあぼくのことも観察してるんだ?」

 

「まぁね。会っている人は、とにかく見てる。
 あなたって、結構人に気を遣えるじゃない?
 私、そういう所も見てしまうんだけど、そういう人あまり信用していないんだよね。」

 

彼女の口癖は、語尾に「…じゃない?」と、
ある種の女性らしさを彷彿させる疑問符が印象的で、
1度目に友人を介して会った時も、そういえばその言葉を何度も使っていたことを
思い出した。

 

「信用してないも何も、まだ会って2度目ですし、当然じゃないですか?
 逆に2度目で"信用できる"って言われるより、あなたのこと信用できるって思いましたけどね。」

 

「え?…うーん。ちょっとよくわかんない。笑」

 

ぼくの「あなたのこと信用できると思いました。」という言葉がガソリンになったのか

そこから、彼女はアクセル全開で話を続けた。
とても燃費の良い、軽自動車か。軽過ぎる

看護関係の仕事をする彼女は、どうやら自分の仕事…というよりも、
自分の話がとても好きなようで、
目を輝かせながら、今の自分の仕事がいかに大変か。過酷か。
そして、社会に必要とされているかを力説した。

内容はあまり覚えていないが、自分の好きなことを、
自分の言葉で話せる人は、やはり素敵だと思った。

しかし、タイミングをみて、間に質問を挟むものの、
基本的には立て板に水状態。
彼女の仕事、つまり看護業界の話についてあまり詳しくないぼくは、
分からない単語が出て来る度に、それを頭の中で繰り返す。
その言葉を繰り返している間に、話が全く別の話題に飛んでいってしまい、
会話に帰ってきたときには、なんの話をしているか分からない。
そんな言葉濁流をさまよっていた。

 

お酒の弱い彼女は、それでも一方的に話をしていたせいか
喉が乾いたようで「サングリアをもう1つ」と、店員に頼んだ。
ぼくも同じタイミングで生ビールを頼んだ。

 

2杯目のサングリアが届いた頃から、
話は恋愛の方へとシフトしていった。

 

「私、今年すごくモテてるんだよね。」

 

ぼくはようやく、自分でも理解できる話題になったと思い、
だらけきった体勢で座っていたのを、座り直し

 

「モテるって、どういうことですか?」

 

「え?知りたい?」

 

 「話したいんでしょ。そういうのいいから、話しなよ。」

 

一瞬。ぼくも年上の女性に対して、
言い過ぎか…と思ったが、もったいぶる彼女の理由が見当たらなかったぼくは
少し語気を強めた。

 

 彼女は、例のごとく
そこからもかなり饒舌で、色んな男に告白されたこと。
いま気になる男性がいて、その男とはすでに身体の関係になっている話。など
とにかく口が止まらないようで、
途中、この状況で話すべきではないのでは?
という内容についても、包み隠さず話していた。

とくに「いま別の男と身体の関係にある」という話をぼくにする理由が
理解できなかった。

 

"脈なし!"
という柔道の旗判定でいうところの
"一本!"
に近い絶望感がぼくの身体にねばっこくまとわりついた。

 

ぼくはそこから更に小一時間、彼女がそんな話を延々と続けるので
途中から「ココの会計、割り勘にしてやろうかな。ってか仮に8,000円とかだったら
5,000円くらい請求してやろうかな。」というケチくさい気持ちに陥るくらい、
彼女の誠意の無さと、価値の無さそうな話の内容に心が折れかけていた。

とにかく、ぼくが話題を変えようとしてもひたすら話しているのだ。

 

多部未華子似の彼女が、
男性との体位の話に、陽気に持っていこうとした所でぼくは

 

 「そろそろ、出ましょうか。」

 

強制終了した。

 

陽気に話をしていた彼女は、一瞬間を置いたが、

「そうね。そろそろ出ようか。」

 

と、さも主導権を握ったかのような返答をして、
お店を出ることにした。

ちなみに、会計は30%だけ請求した…。

 

**

 

2軒目に行くかどうかすら話していないぼくらは、
店を出て、駅に向かって歩いた。

彼女の話の内容に多少のストレスを覚えつつも、
客観的に見て、身長も高く、顔も悪くない彼女の隣を歩いているということ自体は
酔っ払ったぼくを少し迷わせていた。

ここで、2軒目に誘うことが、男の礼儀ではないか。と。

 

そう考えている間に、彼女が

「私がモテている話、聞いてどう思った?笑
 この状況で君に話すようなことでもなかったって思って
 少し反省してるんだよね。笑」

 

ぼくは、テキスト化されていないが、
音声だけで聞き取っただけでも十分に分かる語尾の"笑"を
見過ごす、ならぬ聴き過ごすことができなかった。
とても反省している人から発されるとは思えない、
鼻から抜けるような"笑"。

 

暑さもあって、頭に血がのぼったぼくは、彼女に言うことにした。

 

「正直、ちょっと理解できませんでした。
 恐らく、今日あなたのモテ話だけで90%くらい費やしてましたよね。
 ぼく、結構何度か会話変えようとしたんですけど、
 分かっていたのか、分かっていないのか分かりませんが、
 お互いに時間を割き合っている状況なので、もう少し、相手を尊重する会話を選ぶ人だと思っていました。
 今日はもう、帰ります。って思いましたよ。
 あと多分、もう会わなくていいです。って思いました。」

 

結構、ひどいことを言った気がする。

 

彼女は、一瞬歩く速度が落ちた。
言い返すを言葉を探しているかのように、
それとももっと、ぼくの知らない深い位置にある言葉を拾い上げようとしているのか
彼女は、少し黙った。

やはり、会話の端々から放たれていたプライドは
ここでも健在なのだろうと思い、ぼくは彼女の返答を待った。

しかし、

 

「ごめんなさい。そんなつもりは無くて、
 ただ、すごく話を聞いてくれているように思えてしまって、
 なんでも話しちゃったんだよね。

 確かに、私が今日話したことはつまらなかったかもしれないけど、
 今日の話は事実で、事実を話そうと思ったら、
 あれもこれもと話さなくてはいけない気になっちゃって…。」

 

支離滅裂だが、謝罪の言葉が出たのには驚いた。

しかし、ぼくはなんとなく不快な気持ちを隠し切ることができなく、
謝罪を受け入れつつもかたくなに「もう、会いませんから。」と
言い続けた。

 

渋谷駅に着いてからも、
彼女は謎の弁解を続けた。

正直、ぼくに弁解して彼女が導き出したい会話のゴールが分からず、
ぼくはひたすら、話を聞き流していた。
しびれを切らして、

 

「え?つまり何が言いたいんですか?」

 

ぼくは聞いた。

 

 

「きっと、君の気を惹こうとして、
 そんな話をしてしまったんだと思う。
 私、君のこと好きなんだと思う。」

 

は?

 

性格も会話の内容も全然タイプではなかった。

 

が、

 

一瞬で鼻の下が伸びたのが分かった。

鼻の下が伸びるというのは、もちろん
物理的にということではない。

 

「鼻の下が伸びる」というのはぼくのマインドの話だ。

 

 

「いや、意味が分からないんですけど…。
 意味が分からないんですけど。もう1軒行きますか?
 というか、場所、変えますか。」

 

 

伸び切った鼻の下から繰り出された言葉が、このざまである。

 

 

 

単純で、バカだった。

 

 

 

***

 

 

結局、彼女とはそれから長い関係になることはなく、終わった。

 

付き合ったということもなく、
なんとなく、一瞬関係があっただけの相手。

そこから特に芽生える感情もなく、

男女っていうのは、やっぱり分からんなぁと思った。