ブンブク茶の間

「付き合う前」の、あの感覚が、最高に楽しい。

あるデザイナーとの話(1)

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ぼくは豪華に装飾されたベッドの上で、天井をぼんやりと眺めながら、右腕に温もりを感じていた。
チャンネルを合わせた有線からは、聴きなれない洋楽が流れていた。

***

 

ポケモン、観に行きましたか?面白かったですか?」
ぼくはある女性にそんなLINEを送っていた。

 

20年前、7歳だったぼくはポケモンが大好きだった。
今年上映されたその映画が、当時のアニメ視聴者をターゲットとしている様子は、たまたま見かけたTVCMからも想像できた。

それまでポケモン映画など1度も見たことがないぼくでも、映画館で良いかもしれないと感じられるような、ちょっとしたセンチメンタリズムをはらんでいた。

 

先日、友人の紹介で知り合ったぼくらは、ほんの少しだけ会話をしたあと、LINEだけ交換していた。
同い年の彼女とは、交換したばかりのLINEで映画の話になり、
「今度ポケモン観に行こうと思ってるんです。私、世代だし。」と言っていた。

 

5分ほどして、映画を見たのかというぼくの質問に対する返事が返ってきた。

 

「いえ、実はまだ行けてなくて…。観に行きました?  というか、今日空いてませんか?見に行かない?」

 

それまで、彼女とは予定を合えばご飯に行こう。という話はしていたものの、なかなかタイミングが合わなかった。
しかし、1度会った程度なので、特に義理もなくわざわざ予定を調整することもなかった。

 

ただ、こういう突然の「今日空いてる?」は、なんらかの必然性を併せ持っているかのようで、たまたまぼくも予定が空いていた。

 

「急ですね!?でも、空いてるよ!行きましょうか!」

 

と、約束をした。

 

***

 待ち合わせ場所は、渋谷のスクランブル交差点を抜けた、109の足下だった。

 

「着きました。」とLINEを送ると、彼女からもすぐに

「私も着きました。」と送られてきた。

 

辺りを見渡すと、人混みの中、ぼくと同じように周りを見渡す女性の姿があった。

 

 

目が合い、なんとなくお互い会釈をした。

 

「あっ、こんにちは。」

 

彼女は、身長150cmを少し越えたくらいの高さで、顔は小さく、丸い。
一重まぶたにも関わらず目が大きい。控えめに言って「可愛らしい」という言葉の似合う女の子だった。1度会っているハズなのに、その日は、なぜか改めてそういう気持ちになった。

 

「いきなり誘ってごめんね。なんとなく、空いてるかなって思って。」

 

「いや、全然大丈夫だよ。なんとなく空いてた。」

 

彼女は少し緊張しているのか、それとも普段からそうなのか、媚びを売るような笑顔も見せず「うんうん。」と頷いた。

 

「映画まで時間あるから、ちょっとご飯食べようか。」

 

「そうだね。私、このあたりの良いお店知らないんだけど、君は分かる?」

 

「前に行ったことある店があるから、行ってみようか。」

 

店まで歩く途中、ぼくは彼女の顔をどんな顔だっただろうかと、こっそり何度かまじまじと見ていた。
色の白い肌と、小さな丸い顔が興味をそそった。

 

少し早い時間だったこともあり、店にはすんなり入る事ができた。 

 

「お酒、飲む?」

 

「うーん。1杯だけ飲もうかな?私あんまりお酒強くないけど、ビールの最初の1口目って、好きなんだよね。」

 

そんな事を言いながら、お互いにビールを注文した。

 

「あー!美味しい!でも、もういらないっ!」

 

ビールを一口呑んだ彼女は、笑いながらそんな事を言い、一口目の炭酸の喉越しを堪能した。
やはり、お酒は強くないようで、そこからはグラスを置いて「映画観るの、実は久しぶりなんだよね。」と言った。

 

彼女の首には、控え目だが存在感のある、細く可愛らしいネックレスがあり、彼女はテーブルに両肘をついて、それを両手で触るような態勢で話をしていた。

 

ポケモンってやってた?」

 

これから観る映画の予習、という訳ではないが、丁度、お互いの小学生の頃と重なる記憶を呼び起こそうと、ぼくはそんな質問をした。

 

「やってたよ。思いっきり世代だし。今回の映画だって、私達のためにあるようなもんだよね。きっと。でも、わたしゲーム下手くそだから、あんまり記憶にないんだよね。」

 

ポケモンに、上手いも下手もないでしょ?」

 

「あるでしょ?私全然進められなかったもん。でも、上手い下手とか関係なく、結構好きだったかも。あっ、ところでさ、君ってどんな仕事をしてるの?」

 

彼女は、早々に僕の質問を切り上げて、逆に質問をしてきた。展開の速い彼女の質問に
ぼくは現在している出版関係の仕事の話をしてから、彼女に同じ質問をした。

 

「私は、プロダクトデザインをやってるんだよね。分かるかな?家具とか食器とか、そういうのをデザインしてる。君はデザインって好きかな?

デザインって、面白いんだよ。私がやっているのは家具とか食器だけど、例えばこのビールグラスね。同じグラスでも、デザインによってビール美味しさも変わってくるんだよ。でもそういうのって、意外と信じられていないというか、目に見えない分、いつも後回しにされちゃう考え方なんだよね。

私、美大卒だからさ。デザインって好きなんだ。なぜこのデザインになったのか、この形は、誰のために、なんのために作られたものなのか。そういうこと考えるの、好きなんだ。」

 

彼女は特に感傷的でもなく、全然減っていないビールグラスを時々持ち上げながら、楽しそうにそんな話をした。おそらく、自分の好きなものを人に話すことに慣れているのだろう。


彼女が話すことは、なんだか楽しかった。ただのビールグラスの話であっても、

ずっと前から、その話を聴きたかったかのように思えた。

 

 

続