ブンブク茶の間

「付き合う前」の、あの感覚が、最高に楽しい。

あるデザイナーとの話(3)

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彼女は、誰に対してもはっきりとものを言う性格でもあるらしく、同時に人に嘘をつかない性格でもあった。と言うより、嘘をつけない性格なようであった。

 「私、彼と同棲してるんだよね。」

いま、まさにイルカショーが始まる。というタイミングで、彼女はそう言った。

 

「え?」

ぼくは回答に困って、それしか言えないでいたが、彼女は、ぼくの次の言葉を待つように、ぼくの膝の辺りを眺めていた。

 

「よく、このタイミングで言ったな。」

 

「うん。なんか、こういうのって早い方が良いじゃん。」

 

「黙っておけば、気づかないのに。」

 

「いや、聞かれたし。嘘つくのも悪いなって思ったから。」

 

「そっか。というか。ホント、よく言ったね。まだちゃんと会って2回目なのに。」

 

「また会うかもしれないし、今後、どうなるか分からないし、ずるずる言わないでいるのも、なんかイヤじゃん。」

 

「まぁ、たしかに。今言ってくれて良かったかも。」

 

「そう?」

 

「今、彼とどんな感じなの?」

 

「もうかなり冷めてるよ。少し前から別れ話をしてるんだけど『勝手にすればー?』みたいな返事しか返ってこなくて、話し合いにもならない。」

 

「ホントに別れる気あるの?」

 

「別れる気がなかったら、こうやって紹介された人に合わないし、水族館なんて来ないよ。」

 

「ふーん。そうなんだ。今日は彼になんて言って出てきたの?」

 

「遊びに行ってくる。って。」

 

「何か言われた?」

 

「別に。『いってらっしゃい』もないよ。」

 

「それは、なんか、がっつり倦怠期だな…。どれくらい付き合って、いつから同棲してるの?」

 

「もう、7年くらい付き合ってるかな。同棲し始めて、もうすぐ2年くらい。」

 

「長っ!だいぶ長っ!結婚、射程圏内じゃないの?」

 

「そう、思ったこともあったけどね。もういいんだ。」

 

 「ふーん。そうなんだ。なるほどね。」

 

「もう、私に会わないって思った?」

 

「いや、それはまだ、分かんない。」

 

そんな会話をしていると、イルカショーが始まった。
ちょうど夏休みで、親子連れが多く、水族館は繁忙期なのだろう、イルカショーのクオリティも目を見張るものがあった。

 

***

 

イルカショーが終わってから、ぼくらは夜ご飯を食べるために新宿へ移動した。彼女に何を食べたいのか聞いたら

 

「肉!お肉が食べたい!」

 

と、とても元気よく回答したので、最近行った心当たりのある焼肉屋に連れて行った。

ぼくらは焼肉屋に着くなり、ビールとタン塩を頼んで、乾杯をした。

 

「久しぶりに焼肉食べるんだよね!」

彼女は嬉しそうにそう言いながら、タンをひっくり返して、また少ししてはひっくり返して肉が焼けるのをせわしなく待っていた。

 

「そんなにひっくり返すなよ。」

 

「はーい。」と素直に答えた後「 ねぇ、もう今日で会わない?」と言った。

 

「しつこいな。(笑) 別に普通に会うよ。」

 

「良かった。」

 

「なんかさ、普通に女友達として面白いよね。こんな素直に色々言うとは思わなかった。」

 

ぼくは彼女にそう言って、頃合いになったタンをお皿にのせてあげた。

 

「ありがと!うわぁ、やっぱり肉おいしぃ…。」

 

とても嬉しそうだった。

 

「彼氏とは、焼肉行かないの?」

 

「うん。最近全然出かけない。それになんかさ、全然楽しくないんだよね。君といると、なんか、楽しいかもしれない。」

 

どこまでも正直な彼女は、そう言って、いろんな肉を食べ、酒を呑み、少し酔っ払っていた。そして、隣のテーブルに届けられたビビンバを見て彼女は

 

「ねぇ、あれ食べようよ!ビビンバ!君、まだ食べられるでしょ?私そろそろ限界だけど、あれ、一口くらい食べたい!」

 

彼女は一緒にいる間、ぼくの冗談にシラケるような表情をしたり、突然笑ったり、自分から冗談を言ったり、とにかく忙しく、ころころと表情を変えていた。

 

そんな自分の、感情に正直な彼女を見て、なんだかとても楽しかった。

 

「なんか、楽しいわ。またどこか遊び行こうか。」

 

そういうと彼女は、少し間を置いて

 

 

 

「…。うん。旅行、しようか。」

 

 

そう言った。

 

ぼくは突然の彼女の発言が理解できず、聞き直した。

 

「…え?旅行?」

 

 

「うん。旅行。え?今、旅行って言わなかった?」

 

 

「俺は旅行なんて、一言も言ってないよ。」

 

 

「え?うそ!?旅行って聞こえた!いきなりすごいこと言うなぁ!って思ってびっくりしたんだけど!」

 

「いや、おれがびっくりしたわ。女の子からいきなり旅行とか。めっちゃ大胆だなって思った。」

 

「えー!旅行って聞こえたよー!」

 

「いや、まぁ旅行って聞こえたとして、聞こえたとしても、旅行して良いって思ったわけだ?」

 

「なにそれ!?なんかずるくない?でも、うん。まぁ。旅行、、良いよ。」

 

「おう。分かった。じゃあさ、旅行しよっか。」

 

「…うん。旅行しよ。」

 

「旅行ってさ、おれのイメージだと、泊まりなんだけど。」

 

「えー。泊まりなの?」

 

「旅行って、そうじゃないの?」

 

「分かった。泊まりでいいよ。」

 

 

ぼくらは酔っていた。

一つの聞き間違いから、旅行をすることになった。

 

トントン拍子に話が進んだ。

 

旅行の話が決まってからはお互いに今までしてきた旅行の話をして、盛り上がった。

 

時間を忘れて盛り上がり、時刻は0時を回ろうとしていた。

 

ぼくは、まだ会って2回目にも関わらず、一緒にいてとても居心地の良い彼女と旅行ができることを思うと、気持ちが高揚した。

 

そして、

 

 

なにより、わりと酔っていた。

 

 

 

「あのさ。一応、マナーかなって思って聞くけどさ。」

 

 

「うん。なに?」

 

 

「もう終電近いけどさ。」

 

 

「うん。」

 

 

 

「もうちょっと一緒にいようよ。」

 

 

 

「え、んー。えっと、いいよ。じゃあ、お店変える?」

 

 

 

 

「いや、ここじゃなくてさ。場所変えよっか。あのさ。この近くホテルってのがあるんだけど。」

 

 

 

「うわ。最低。予想してたけど、最低。最低!最低!!誘い方とか!最低!!」

 

 

5回も言われた。

 

 

...えっ?旅行する話までして、ここにきて最低?

 

 

 

酔っ払ったぼくは、...最低だったのだろうか。